ぼくと魔法の言葉たち
あらすじ
自閉症により2歳の時に突然言葉を失った少年が、ディズニー映画を通じて徐々に言葉を取り戻していく姿を追ったドキュメンタリー。サスカインドの次男オーウェンが2歳から言葉を失い、コミュニケーションが取れなくなってしまった。オーウェンが発するモゴモゴとした意味不明の言葉の正体が、彼が毎日擦り切れるほど見ていたディズニー映画「リトル・マーメイド」に登場するセリフであることに気づいた父ロンは、息子の好きなディズニーのキャラクター、オウムのイアーゴのぬいぐるみを手に取り、身を隠しながらオーウェンに語りかける。父の問いかけに言葉を返すオーウェン。その時、オーウェンは7歳になっており、5年ぶりに耳にした息子の言葉に涙をこらえながら、両親はディズニー映画を通じてオーウェンの言葉を取り戻すための作戦を練る。
ピューリッツァー賞を受賞したジャーナリストでもあるロン・サスカインドの著書「ディズニー・セラピー 自閉症のわが子が教えてくれたこと」をもとに、アカデミー短編ドキュメンタリー賞を受賞した経歴を持つロジャー・ロス・ウィリアムズ監督が手がけた。
ネタバレ感想
自閉症の青年オーウェン・サスカインドの今までの人生をアニメ映像を織り込みながらドキュメンタリータッチで描いたこの作品、オーウェンは3歳のそれまで父親や兄とフック船長ごっこをしたり普通の幼児として過ごしていたところをある日突然「言葉」を失ってしまいます。
彼に告げられた診断は「広汎性発達障害」という世間には「自閉症」の呼び名で浸透している障害でした。まず、自閉症と聞くと先天性のものというイメージが個人的に強かったのである日突然、明確なきっかけも分からず何が彼をそう至らしめたのかを考えてただただ衝撃を受けました。
回想には実際の映像が使われ、父ロン、母コーネリアといった家族や周囲の人々も全てがご本人の出演なので、医者から二度と言葉が戻らず喋れない場合もと宣告された両親の当時の絶望もダイレクトに伝わってきます。
彼にとって「言葉」は理解できず「ただの音」としか捉えられず世の中全ての刺激が強すぎるという想像を絶する世界の中、家族揃っての唯一の楽しみディズニーのアニメ映画の鑑賞だったそう。
言葉を失った息子がある晩<リトルマーメイド>観賞中に「ジューサーボース」と繰り返し呟くのです。何度も何度もビデオテープを巻き戻し「ジューサーボース」と発するオーウェン。やがてそれはリトルマーメイドに登場するヴィランズのアースラの台詞である「ジャストユアボイス《声をよこせ》」だと分かった両親。
声を失った子が久しぶりに話した言葉に歓喜し医者に連絡をとるも、それはエコラリア=反響言語と呼ばれる一種のオウム返しに過ぎないと諭されます。
「ジューサーボース」から四年、相変わらず沈黙を貫くオーウェンでしたが兄ウォルトが9歳になる誕生日パーティの後事件は起こります。
友達が帰って庭で涙ぐんでいる兄を見たオーウェンはキッチンに居た両親に向かって“お兄ちゃんは子供でいたいモーグリやピーター・パンだ”と完全な文章かつ明らかに分析的な思考を使った発言をしたのです。
映画を通じて現実の世界を理解しようとしているんだと気づいた父ロンは息子が話せるように努力しないと…と考えアラジンに登場するオウムのイアーゴのパペットを使い自分は隠れ声真似をしながらオーウェンに話しかけました。すると会話が出来たのです!
そこから家族中がディズニーのアニメ映画の中のセリフで話し始めたそう。
流動的な社会に対して、決して変わることのないアニメの世界。それが彼の居場所でもあったのです。
いじめっ子の言葉も文字通りに受け取ってしまい恐怖に怯える日々が痛々しいのですが、そこでも彼はディズニーキャラクターの脇役達を通して壁を乗り越えていこうとします。
年を重ね、ディズニー・クラブで活き活きと楽しむ姿や自立の道、恋人との別れを経験し着実に大人になっていく彼の姿が見られます。
個人的には兄ウォルトの将来に対する不安や現実味を帯びた苦悩、覚悟がかなりグッときました。
映画と思って見たのですがほぼドキュメンタリーです。
自閉症という障害への理解が深まると同時に純粋な気持ちを思い出させてくれるようなそんな映像作品でした。
評価(平均点高めの設定です。)
3.9 /5 点!
概要
監督:ロジャー・ロス・ウィリアムズ
時間:1時間31分
配給:トランスフォーマー
公開年:2017年
- 出版社/メーカー: トランスフォーマー
- 発売日: 2017/12/22
- メディア: DVD