異端の鳥
あらすじ
東欧のどこか。ホロコーストを逃れて疎開した少年は、預かり先である1人暮らしの叔母が病死して行き場を失い、たった1人で旅に出ることに。行く先々で彼を異物とみなす人間たちからひどい仕打ちを受けながらも、なんとか生き延びようと必死でもがき続けるが……。
ナチスのホロコーストから逃れるために田舎に疎開した少年が差別に抗いながら強く生き抜く姿と、ごく普通の人々が異物である少年を徹底的に攻撃する姿を描き、第76回ベネチア国際映画祭でユニセフ賞を受賞した作品。ポーランドの作家イェジー・コシンスキが1965年に発表した同名小説を原作に、チェコ出身のバーツラフ・マルホウル監督が11年の歳月をかけて映像化した。
予告動画
映画『異端の鳥』予告編|10月9(金)TOHOシネマズ シャンテほか公開
新人俳優ペトル・コラールが主演を務め、ステラン・スカルスガルド、ハーベイ・カイテルらベテラン俳優陣が脇を固める。2019年・第32回東京国際映画祭のワールド・フォーカス部門では「ペインテッド・バード」のタイトルで上映。
ネタバレ感想
コロナ禍で観たい作品は軒並み公開延期、自粛も兼ねてしばらく劇場に足を運んでいなかったのですが、そろそろ…とぼんやり思い始めた時に公開を知ったこちらの作品。
ミッドサマー以来の劇場鑑賞でしたが、これまたとんでもないのを引いたな、という感じです。
ざっくり言えば第二次世界大戦下でホロコーストを生き延びた一人の少年の苦難にまみれた日々を追っていく物語。さながらおしんのようなイメージです。
BGMはおろか、台詞が極端に少なく最初はなんのこっちゃ分かりませんが、とにかくこの少年の不幸っぷりが半端ない。あらゆる過酷な環境を網羅したと言ってもいいほど理不尽で不憫な目に遭いまくり、時に売られ、時に逃げ出し、時に拾われ…を繰り返していく中で様々な大人の中で生きる事を余儀なくされるのです。
いっその事一思いに殺された方がマシなのでは?と思うような場面でも少年が純粋に生に執着しなんとか生き延びようと知恵を働かせ環境に馴染んでいく様は、人間の本能そのもののように見えました。
エログロ描写も盛り沢山で、R指定があるとは知らなかった自分はわりと序盤でのスプーン目玉くり抜きが出てきたシーンでギョッとさせられました。
色んな出会いがある中で、良心を持つ大人の少ない事。時代がそうなのか、彼が不運過ぎたのか、そのどちらもなのか。剥き出しの憎悪や欲を一方的にぶつけられる姿はあまりにも無慈悲で残忍。
少年を気にかけてくれていた司祭はそれこそ神に仕えるに相応しいと思えるような人物ではあったものの、それ以外でユダヤ人である少年を拾ってくれて唯一人間らしい接し方をしてくれたのがソ連兵で、『目には目を歯に歯を』という訓えにより、自分を虐げる者への容赦無い復讐を遂げるのがまた皮肉に映ります。
終盤、ヨスカを一人疎開させた父親に見つけられ引き取られるのですが、もはや感覚が麻痺するまでに摩耗された少年にあるのは怒りの感情なのです。
ラストでは「自分の名前も忘れてしまったのか…?」とそれだけで壮絶さを物語る父親の台詞に呼応するように少年がバスの窓に『JOSKA〈ヨスカ〉』と書くところに彼の小さな安堵が現れているようで、重いなりに救いのある結末となっておりました。
無表情でほとんど話すこともない心を閉ざした少年を演じた新人俳優〈ペトル・コラール〉に脱帽です。劇中何度、子供にこんなシーン演じさせるな…と思ったことか。
上映時間は長めの169分、その全編がモノクロ映像となっており、モノクロであるがこその映像美がそこにあります。
開始直後からアーティスティックな映画にありがちな『意味が分からん』『何を見せられてるんだ…』という気持ちになりっぱなしなのですが、それでも観ていて退屈さが皆無で「分からないなりに観る価値がある」と思わせられるのです。
観終わった後に感じる嫌悪感にも似た余韻は顕著で、カラーの世界に帰ってきてもしばらくは重苦しい気持ちを引きずるような、押し黙ってしまう感覚になるような深さを感じました。
やはり人間は恐ろしい。集団になった時の異端な物を排除しようとする心理も、大多数の中に居るとそこに何の疑問すら持たなくなる様もある意味人間の本質で、その醜さの表現が秀逸過ぎるが故の胸糞悪さが凄まじいのです。
評価(平均点高めの設定です。)
4.0 /5 点!
万人にお勧めは出来ず、理解し切れていない部分も明らかに多いとは思うものの鑑賞後の余韻が大きく自戒にも繋がる良作でした。
概要
監督:バーツラフ・マルホウル
時間:2時間49分
配給:トランスフォーマー
公開日:2020年10月9日
- 作者:イェジー コシンスキ
- 発売日: 2011/08/05
- メディア: 単行本