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アップグレード

あらすじ

近未来、妻と平和な日々を送っていたグレイは、突如現れた謎の組織によって妻を殺され、自身も全身麻痺となってしまうが、巨大企業の科学者によって実験的に埋め込まれたAIチップ「STEM」の力によって麻痺を克服し、人間を超越した身体能力を手に入れる。グレイは脳内で会話する相棒的存在である「STEM」と協力し、最愛の妻を殺害した謎の組織への復讐を誓う。

「パラノーマル・アクティビティ」のジェイソン・ブラムが製作、「インシディアス」シリーズで脚本や監督を務めたリー・ワネルがメガホンを取ったSFアクション。

主人公グレイ役を「プロメテウス」「スパイダーマン　ホームカミング」のローガン・マーシャル＝グリーンが演じる。

ネタバレ感想

時代は近未来。主人公かと思われた女性が序盤でアッサリ死んでしまった事にまず衝撃を受けます。

近未来物らしく自動操縦運転の誤作動で車が暴走し横転。

そこへどこからともなく武装したゴロツキの集団が現れ、あっという間に夫婦は襲われ、妻は銃で撃たれて死亡、夫〈グレイ〉は脊椎を損傷し命こそ助かったものの半身不随に。

元々アンチ機械のグレイは昔ながらの車イジりをしているような人物で、そんな男が自動操縦運転が引き金となって最愛の妻をなくすも、半身が思うように動かずとも生活に根付く機械が彼の日常を助けるという皮肉な展開です。

皮肉は更に続き、先進技術を持つとある会社の代表〈エロン〉から『STEM〈ステム〉』と呼ばれる最先端テクノロジーAIチップを身体に埋め込み、脳への信号を手助けする事で元のように自らの意思で動ける体にしないかと話があります。

ただし、この技術はまだ世に出してはいないもので人体実験という観点からも他言は無用というのが条件です。

手術が終わり見事に身体の動きが戻った時のリアルな喜びを見ると、近い将来こういったマイクロチップでの治療も現実的な物になるのだろうな、とボンヤリ考えます。

さて、ここから斬新だなと感じたのが、脊椎に入れられたステムがグレイの視界を通して世界を見て発した声を聞き取り音波で語りかけてくるという仕様です。

そして妻を殺した謎の組織を追うグレイにAIならではの助けを出し、ステムがネット上で探して来た情報を教えてくれたりグレイの体を一時的に借りてアウトプットを行ったりとまさに一つの体を共有しているかのよう。

人格があり会話が成り立つ時点で『二人』と言っても過言ではないところがある意味で恐ろしい。

ステムに身体を預けることを許可すれば、飛躍的な身体能力の向上と的確な指示や脅威の記憶、あらゆる計算データに基づいた動きで殺しまで厭わず怖い物なしの状況。

実際に組織に迫り、何人も人を殺しても表向きにはあくまで半身付随の歩くどころか手も動かせない男です。

殺しを犯してしまったグレイに対し、ステムが公になる危険性があるから控えるようにエロンからキツく注意されるのですが、グレイの中のステムが逆に遠隔でステムをダウンさせようとするエロンに対して周到な先手を用意してハッキングし返したり。

敵もまた身体に武器を埋め込まれた改造人間だったりと未来ヤベーよ、と思わざるを得ないのですが、最新テクノロジーなだけにやはり人間の作るものには穴があるもので、科学技術の集大成だからこそアナログな盗聴器には対応できない面があったりする一面が逆に安心できてしまいます。

しかし『共有』はいつしか『支配』となり、主導権を握るのがステムとなっていく…つまりここはありがちなAIの暴走化。

ただ、終盤でも面白かったのが、いかにも支配的で自分達の敵に思えたエロンが「唯一ステムを作れる者」として実は一番ステムに狙われた存在であったこと。

ステムが主人公を選び、彼の肉体を乗っ取り人間進化するために妻を殺し主人公の脊椎を損傷させるよう仕向けた根源だった事が発覚します。

最初から全ては仕組まれた罠で、エロンの言動すらもステムの指示によるものだったというのは面白かったです。

そしてグレイの心は砕け、仮想世界へと堕ち現実よりも遥かに甘美な妻の生きている世界へ。

エロンだけでなく勘の鋭い刑事もグレイの肉体と思考を手中に収めたステムによって殺されて終わるという完全なるバッドエンドとなりました。

これに関しては安易に心の強さだとか振り絞った正義の勝ち、とかでグレイが起きてきたりするより良かったかもしれません。

想像や創作の世界でもこれだけAIの暴走が題材に挙げられるのですから、いつの時代になってもアンチAI派がいる事は間違い無いですし、100%起こり得ないとは言い切れない問題だよな、と改めて感じます。

果たして人間の存在意義が皆無になる日はやって来るのでしょうか。

評価(平均点高めの設定です。)

 4.4  /5 点！

概要

監督：リー・ワネル

時間：1時間35分

配給：パルコ

公開年：2019年

アップグレード [ ローガン・マーシャル=グリーン ]

アップグレード (字幕版)