あらすじ
精神を病んだ犯罪者だけを収容し、四方八方を海に囲まれた「閉ざされた島(シャッター アイランド)」から一人の女が姿を消した。島全体に漂う不穏な空気、何かを隠した怪し気な職員たち、解けば解くほど深まる謎……。事件の捜査に訪れた連邦保安官テディがたどり着く驚愕の事実とは!?
ネタバレストーリー
『何度見ても面白い』以上に『繰り返し見るのが面白い』作品なので、二回目以降の鑑賞を前提とした解説や解釈などの自分用メモを残しておきます。
舞台は1954年。アメリカボストン沖合の孤島<シャッターアイランド>。ここには凶悪かつ治療不可能な犯罪者が収容される精神病院、アッシュクリフ病院がある。この病院から女囚人レイチェル・ソランドーが脱走したとの報せを受け、連邦保安官のテディと相棒チャックは捜査のために島へと上陸する。島の唯一の出入り口である桟橋で、副警備隊長のマクフィアソンに出迎えられるが、そこは厳重警戒がなされており、警備部隊のムードも穏やかではない。島内のアッシュクリフ病院まで車で案内されるが、滞在中の規則として、危険な患者が収容されるC棟に入るにはマクフィアソンとコーリー院長の許可書に加えて立ち合いが必要とされること、銃を携帯して施設内には入れないことを告げられる。しぶしぶ銃を預けて病院内へと足を踏み入れる二人。
コーリー院長からレイチェルについて事情を聞く。ノルマンディー上陸作戦で夫を亡くした彼女は、我が子三人を家の裏の湖で溺死させ、二年前に施設に入ってからもアッシュクリフを自宅だと思い込んでおり、子供が生きているという妄想に囚われているらしい。
彼女は前日の午後10時~0じの間に失踪し、島中を捜索しても見当たらず、どのようにして外から施錠された部屋から脱出したのかも不明とのこと。その部屋を確認している最中にテディは床板が一部外れることに気付く。そこから出てきたのは“THE LAW OF 4 WHO IS 67?”「4の法則 67は誰?」とレイチェルの筆跡で書かれた一枚の小さなメモだった。
捜査のため、職員のデータを見たいというテディに対し、「考えておこう」と曖昧な態度を取るコーリー院長。
テディの要望で職員の事情聴取が始まるも、職員達はテディに対して不審気で小馬鹿にしたような態度を見せる。さらにレイチェルの主治医だったシーアン医師は、担当患者が脱走して非常警戒事態にも関わらず、午前中のフェリーで休暇に出てしまったという。
コーリー院長の煌びやかな自宅に招かれたテディとチャック。そこにはナーリング医師も同席しており、彼の発音からナーリングがドイツ人であると見抜くテディ。シーアン医師と職員の個人情報を求めるがまたしても断られる。激昂したテディは捜査は打ち切りにし、FBIに報告書を提出すると怒鳴りつけてその場を後にする。
用意された宿舎で眠りにつくテディは夢を見る。アパートの一室で妻ドロレスから酒瓶を片手に飲酒を責められるテディ。「君は本物?」と問いかけると、ドロレスの手から酒瓶は消えており「いいえ」と返される。ドロレスはレイチェルはここに居る、と話す。「彼もここにいる レディスよ」と訴えるドロレス。抱きしめた彼女は水浸しで腹部から血を流している。辺りには灰が舞い、最後には彼女自身が灰となって消えてしまう。
翌朝目覚めると、嵐の影響でフェリーは出ないと告げられる。
コーリー院長にレイチェルが参加していたグループ療法の患者に話を聞きたいと頼むテディ。そこで院長から最近の精神医学の現状は、前頭葉切裁術、つまりロボトミー手術を始めとする外科処置を支持する保守派と、薬での治療を支持する改革派の戦争だと聞かされる。
複数人の患者を聴取するが、院長や看護師と同じ事を答え、レディスという患者について尋ねると明らかに動揺を見せる患者たちを不審に思うテディ。
相棒のチャックに患者たちに尋ねていた「レディス」という男は何者なのか説明を求められたテディ。レディスとは、テディ夫妻が暮らしていたアパートの修理人で妻の死の原因となった放火の犯人だった。レディスがアッシュクリフに収監されたことを知り、復讐を果たすために今回の任務を願い出たテディだが、彼は見当たらず、C棟に収監されていると確信しているよう。
レイチェルやレディスがもし既に死んでいれば人知れず処理されている可能性が高いと考え墓場を調べに行くテディとチャック。そこでテディは、この島ではマインドコントロールが行われており、患者たちまでもが皆放火魔レディスについて聞くと口を閉ざすのは精神を操られているからだと推察する。彼がこの推察に至ったのは、ジョージ・ノイスという元アッシュクリフ病院のC棟に収容されていた犯罪者と面会し、シャッターアイランドで人体実験が行われていることを聞いたからだと言う。正義の為、その証拠を掴んで暴露するという目的が彼にはあった。
そこでチャックが聞く。「ここのことを調べていたらたまたま保安官が呼ばれたのか?そうじゃない世の中そううまくは運ばない」この島に潜入できたのは偶然でもラッキーでもなく、人体実験の事を嗅ぎまわっていたテディを嵌めるために黒幕の政府が偽装したのだと。ようやく自分がハメられたことに気付いたテディだが、嵐の中迎えに来た副警備隊長に連れられて病院内へと戻る事になる。
嵐でびしょ濡れになった二人に用意されたのは職員用の看護服だった。着替えを済ませた二人が院長のもとへ向かうとそこでは嵐の影響で電力が途切れた場合に備えた会議が行われていた。話を聞くとC棟には24人の患者が、A棟B棟には合わせて42人の患者が、つまりアッシュクリフ病院全体で収容されている患者は66人居るという。テディはこれを聞き、レイチェルの残した「67番目は誰?」という暗号に繋がると指摘するが、医師たちは彼の話を聞こうとしない。さらに、コーリー院長からレイチェルが戻ったと聞かされる。無事に戻ったというレイチェルは傷一つなく明らかに不審である。テディは彼女の妄想に合わせて会話を試みる。レイチェルは戦死した夫ジョンとテディを混同したかと思えば「あなたは誰!」と叫びだし、かなり精神錯乱に陥っている様子。
嵐はひどくなる一方なので、コーリー院長から地下室に避難しておくように勧められる。稲妻の光に目が眩み具合の悪そうなテディに対し、光に過敏なのが偏頭痛の原因かもしれないと言われ得体の知れない薬を出される。具合の悪いテディは地下の簡易ベッドに連れてこられ、そこで見た鋭い目つきの警備隊長を「あいつは絶対元軍人だ」と言い眠りに就く。
夢の中でテディは、戦時中のドイツを歩く。道には無数の死体が放置されており、厳しい寒さの中で雪にまみれて凍ってしまっている。積み重なった死体の中に母親と娘であろう親子の死体があった。通り過ぎたテディがもう一度その親子に目をやると、母親らしき死体の顔が病院で出会ったレイチェルのものに変わり、見開かれた目と視線が合う。次の瞬間、娘の死体も目を開き起き上がる。“私を助けもせず…私たちを死なせたのよ”と囁かれたテディは次の瞬間、暖炉の火が燃え盛るコーリー院長の自宅に来ていた。暖炉の側の椅子に座っているのは探し続けていた顔に傷を持つ男、放火魔アンドリュー・レディス。彼はテディを友達と呼び、マッチでテディの咥えた煙草に火をつける。さらに酒を勧めてくるレディスだったが、次の瞬間レディスはチャックに変わっている。突然聞こえた女性の悲鳴に視線を外すと、レディスもチャックも消えており、そこに立っているのはテディ一人だった。視線の先には血塗れのレイチェルが立っていて「手を貸して」と求める。彼女の足元には血塗れの三人の子供達が転がっていた。涙を流しながら一人の少女を抱き上げるテディに、少女が「私死んだの?」と問う。「許してくれ」と答えるテディに「なぜ助けなかったの?」と少女。「助けたかっただがあそこに行った時には手遅れだった」場面は湖に変わり、レイチェルが見守る中、二人の少年の死体が浮かぶ湖へと少女を沈めるテディ。沈みゆく少女がテディに何かを訴えているがそこで目が覚める。外は依然、嵐のまま。手帳を取り出し、“THE LAW OF 4 WHO IS 67?”と書かれたページを確認した瞬間、地下室に一人の女性が入ってきた。その女性は亡くなったはずの妻ドロレス。「ビショ濡れだよベイビー」と呼びかけるが、ドロレスは「レディスは生きてここにいる あいつを捜し出して殺すのよテディ」と訴える。
そして再び目覚めるテディ。妻ドロレスの幻影もまた夢の中での出来事だった。
目が覚めると、発電室が浸水し、停電の影響で患者が脱走している非常事態になっていた。この混乱に乗じて、レディスを探しに最も凶暴な囚人が収監されているというC棟へと侵入するテディとチャック。看護服を着ていることもあり、すんなりC棟への侵入に成功する二人だったが、突然現れた上半身裸のビリングスという患者に驚かされ、逃げられる。ビリングスを追うも、チャックは二人を見失ってしまう。隠れていたビリングスに襲われたテディ。「俺はここを出たくねぇ出てくもんかいろいろ聞いてるんだシャバで何が起こってるか…太平洋での水爆実験 普通の爆弾は外に向けて爆発する水爆は中に爆発するんだものすごいパワーの爆発を起こす」と叫ぶビリングスを押しのけ首を絞めるテディ。駆けつけたチャックと警備員に制止され、ビリングスを医務室へと運ぶ間一人取り残され、更に奥へと進む。どこからか「レディス…」と囁く声が聞こえる。テディはマッチで火をつけ暗闇の独房に目を凝らす。独房には居るはずのないジョージ・ノイスの姿が。病院に連れ戻されるくらいなら死刑を望むといって終身刑で服役していたはずのノイスが収監されていた。テディが話したせいで連れ戻されたんだと責め、灯台で行われている人体実験を恐れるノイス。病院側の陰謀にハメられている事や相棒のチャックすらも疑わしいと警告し、レディスが灯台に居る事を示唆する。
チャックと合流し、院長が患者に暴行を働いた職員を探し回っていると聞かされ、C棟から逃げる二人。レディスの受入票を見つけたというチャックを置き去りにし、一人灯台を目指すテディ。なかなか灯台に辿りつけないテディだったが、崖の上で火のついた煙草を発見する。崖の下を見やるとそこには相棒チャックが倒れていた。急いで崖を降りるがそこに居たはずのチャックは居なくなっており、崖の真ん中にできた洞窟から漏れる光を目指してまた崖を登るテディ。
洞窟の中には、一人の怯えた女性が身を潜めていた。テディはこの女性こそが本物のレイチェル・ソランドーだと確信し、彼女に話を聞く。子供はおらず結婚すらしていないと話す彼女は、患者になる前は医師としてアッシュクリフで働いていたという。
「“病気”と思われたら何をしてもそのせいにされる」
彼女は、病院が組織ぐるみで行っていたロボトミー手術という治療法を利用した、残酷で非人道的な人体実験ともいえる人造兵器の開発がこの島の灯台で行われている事に気が付き、逃亡を謀っていた。
妻を亡くしたトラウマを持つテディに「過去のトラウマが正気を失う要因にされる」と教え、「ヘンな夢を見るとか眠れないとか頭痛とか?」とテディの偏頭痛を言い当て、アスピリンや病院の食べ物やコーヒー、煙草には精神治療薬の成分が含まれていて危険だと警告する。
再び崖を登ったテディは警備隊長の運転するジープで病院へと送られる。
病院では何やら会議が行われていたようで、会議室から出てきた職員の中には患者であるピーターやカーンズも混じっていた。昨日C棟に侵入者があり、凶暴な患者を簡単に始末し、ノイスという患者とも話したらしいと院長から聞かされるテディ。周囲から警戒の目を向けられた事もあり、ノイスの幻覚症を確認すると、二週間前にも彼の言葉に怒った患者にメタメタに殴られたという。煙草を勧められるも断るテディ。レイチェルは無事だったので帰るか聞かれ、自分達の役目は済んだのでフェリーで帰ることを告げる。相棒のチャックがどこに居るか問うと「君は一人で来たんだよ」と告げる。相棒の事を聞かれて、正気を疑われる事を恐れたテディは「相棒って?」ととぼけて見せた。
シャワーを浴び、病院から逃げ出そうとするが、ナーリング医師と出くわしてしまう。フェリー乗り場は逆だと言われ引き返そうとするがナーリング医師の手に注射器が握られているのを見つけたテディはそれを取り上げ彼に詰め寄る。「鎮情剤だよ念のためだ」と言い、トラウマについて話し出したナーリング医師に注射器を突き立て逃げ出すテディ。チャックは死んだことにされ灯台で実験台にされてしまうのだろう。相棒を見捨てられるはずもなく、院長の車を爆発させ、その隙に灯台を目指す。
辿り着いた灯台の中の螺旋階段を上り部屋を確認していくがどこも何一つない空っぽの空き部屋だった。頂上まで上り、最後の扉を開くとそこにはコーリー院長がデスクに座って彼を待ち構えていた。辺りを警戒するテディに対し「その銃は空っぽだよ座って」と促すコーリー院長。
困惑するテディに対しコーリー院長は全てを説明し始める。
手の震えは薬の副作用ではなく、クロルプロマジンという薬の禁断症状からくるもので、患者として二年前からアッシュクリフに居るというのだ。「4の法則」とはアナグラムを用いて作られた名前、「67番目の患者」はアンドリュー・レディス、テディと名乗る君自身だ、と。職務でこの島に来たテディは島で陰謀を知る、そんな話を二年間聞かされ暗記してしまったよと語るコーリー院長。暴力的であり、元保安官として訓練もされてきた危険な存在であるレディス。彼が一番認めたくなかった「レディス」という名で呼んだノイスを殺しかけたことをきっかけに、処置を下すべきと判断した警備隊長と理事たち。今回正気に戻すことが出来なければ他人を傷つけぬよう最終手段としてロボトミー手術を施されるのだ。
そんな話を容易く信じられるはずもないテディだったが、そこに消えた相棒のチャックが入ってきて、監視役として付き添っていた主治医のシーアンだと名乗る。
真実を思い出すようレディスの過去を話し出すシーアン。「ドロレスは鬱病で自殺願望があった 君は家に戻らず酒におぼれた アパートに放火したのは彼女だ それで湖畔に越した」シーアンの言葉に激昂するテディに三人の子供の遺体写真を見せ、彼が見る悪夢の内容まで言い当てるコーリー院長。娘レイチェルの写真を見て、全てを思い出したレディス。連邦保安官時代、捜査を終えて自宅に戻ったレディスは早速酒を取り出し、ドロレスに話しかける。家に居るはずのドロレスから返事はなく、裏庭でびしょ濡れになった妻を見つける。様子のおかしい彼女と、見当たらない子供達に嫌な予感がしたレディスだったが、その予感は的中する。湖に浮かぶ我が子の変わり果てた姿を見つけ、庭に並べ寝かすレディス。ドロレスの言動は常軌を逸しており、彼女の精神状態の異常さがよく分かる。残った理性で「私を楽にして」と涙ながらに訴えた妻の腹部を撃ち抜き崩れ落ちる。
パニックを起こし倒れてしまったテディだったが、次のシーンでは娘であるレイチェルの名を叫びながらアンドリュー・レディスとして目覚める。子供達を妻の手で殺され、その妻を殺した自分。テディ・ダニエルズもレイチェル・ソランドーも架空の存在であり、自殺未遂を起こした妻の助けを求める声に耳をふさいだ自分を許せず、妻の犯した罪は自分のせいだと責め、創作した物語の中へ逃げ込んだ事を認める。
コーリー院長によれば、レディスは9か月前にも一度回復し、レディスとしての自分を取り戻していたがまたテディに逆戻りしていたよう。自分を見捨てなかった医師に感謝を述べ、現実を受け入れる覚悟を見せるレディスだったが、次のシーンでまたシーアン医師のことをチャックと呼び、テディに戻ってしまったレディスは職員達に連れられ灯台に向かうのだった。
解説
連邦保安官が捜査に踏み込んだ孤島の中に佇む凶悪犯を収監するための精神病院。この設定だけで十分に怪しさを感じさせる病院内では、医師も患者もどこか不自然でおかしい。主人公テディはナチス時代に収容所解放を経験したアメリカ人。ドイツ人医師が国籍を隠しアメリカ人を装いながらテディに接した事も手伝い、灯台で行われているという恐ろしい人体実験が現実味を帯びてくる。
病院の実情を探り調査していたことを嗅ぎ付けた病院側は患者の脱走を装い、この島内に保安官を呼び寄せたのだった。捜査に来た保安官は不都合な存在であり、薬漬けにすることで精神異常をでっちあげ島に幽閉してしまおうと目論む病院側の闇が見え隠れする。
精神を病んだ者の言葉は誰も信じず、精神科医に異常を診断されるとどんなに足掻こうが正論を唱えようが一つの病状として処理されてしまうのだ。
劇中にもあった通りの陰謀説をミスリードさせながら、実際にはテディ自身が精神病を患った収容患者であり、一連の保安官としての捜査は医師による「実験」で、テディが繰り返し訴えていた妄想を再現したロールプレイングだった。
妄想を現実にすれば現実との矛盾に直面して正気に戻らざるを得ないだろう、という新たな試みの治療だったのだ。
「彼女は現実に目覚めないんですか?こういう施設にいることをいつかは気付くはずだ」と問うテディに対してコーリー院長が「人間は思い込みを正せないのだ」と答える場面があったが、これはまさにテディになりきって虚構の世界で生活しているレディスにそっくり当てはまる。
映画の中でたびたび出てくる火と水のイメージはそれぞれ妄想と現実の境目のヒントだと言える。
妻を放火で殺されたと妄想するレディスから分かるように、火のイメージは虚構の世界に繋がる。C棟でジョージ・ノイスと話した時にマッチで火を付けた後のやり取り、洞窟で出会った女性と焚き火の側で会話するシーン、火が側にある事がテディ目線の幻想だと考えながら見ると分かりやすい。院長の車を爆破させたシーンでも炎の中ドロレスと少女の幻影を見ている。
一方、子供達を溺死させられた事実から、水のイメージは現実により近い。ミセスカーンズの聴取の際にコップごと水が消えているシーンがあるが、本来現実にあるはずの水が消えている、つまりテディの妄想が混じっている、と読み取れる。
別の視点で見ると、テディは本当に連邦保安官で、病院側が得体の知れない人体実験の被験者を集めるために島に入り込んだ一人の保安官を島ぐるみで妄想癖のある精神病患者に仕立て上げ信じ込ませたという見方もできる。
ただ、この見方をすると、レディス自身が実際に経験したトラウマが絡みついているからこその錯乱なわけであり、植え付けられた設定だけで正常な精神状態を持っていたテディがここまですんなり洗脳されてしまうのかという疑問が残るのだ。
登場人物
テディ・ダニエルズ Edward "Teddy" Daniels
シャッターアイランドで脱走した女囚人の捜査で派遣された連邦保安官。
↕ 放火魔レディスによって妻を火事で殺された。
アンドリュー・レディス Andrew Leaddis
①テディが生み出した架空の存在。妄想の中の放火魔レディス。
②テディを生み出した本来の人格。
頭脳明晰な元連邦保安官。保安官の職に就く前には'45のダッハウ強制収容所の解放に連合軍側として参加し、多くの人々の命を奪った過去を持つ。我が子を溺死させたうつ病の妻を銃殺した辛い過去からの逃避で、テディという人格を生み出し妄想の中の世界でテディとして生きる。妻ドロレスが起こした火事を、架空の放火魔レディスによるもので、妻は放火魔のレディスに殺されたというストーリーを作り上げる。
チャック・オール Chuck Aule
↕ テディの新しい相棒の連邦保安官。
シーアン医師
アッシュクリフ病院の医師。 チャックの正体であり、レディスの担当医。
ジョン・コーリー院長 John Cawley
アッシュクリフ病院の院長。
非人道的なロボトミー手術に疑念を抱いており、保守派でも革新派でもない進歩派と自称する。今回レディスのロールプレイ治療を実験的に行っていた責任者。
ジェレマイアー・ナーリング医師 Jeremiah Naehring
アッシュクリフ病院の医師。ロボトミー手術推進の保守派であり、今回の実験的治療には否定的。
ドロレス・シャナル Dolores Chanal
レディスの妻。鬱病を患いアパートへの放火によって自殺を謀るも失敗に終わり、引っ越した先のバークシャーで、我が子三人を家の裏にある湖に沈めて溺死させた。かろうじて残っていた理性で、夫のレディスに自分を楽にしてくれと頼み腹部を撃たれ銃殺される。
レイチェル・ソランドー Rachel Solando
レディスが妄想の中で創り上げた架空の人物。
↕ 三人の子供を溺死させ、アッシュクリフに二年間収容されていたが失踪する。
エセル・バートン
洞窟の中に隠れていた女性。本物のレイチェルで人体実験に反対し、病院から逃亡を謀った女医だと言っていたが、そもそもレイチェル自体がテディの妄想の中の人物なので、この女性も実在していないと思われる。
ジョージ・ノイス George Noyce
以前シャッターアイランドに収監されており、テディの妄想の中で情報をもたらす男。
実際にはC棟に収監されている患者で、全身に傷を負っているが、これは2週間前にテディになりきっているレディスに対し、本名で呼びかけたことで怒りを買い、凶暴なレディスによって半殺しにされた時のもの。
警備隊長 Warden
ロボトミー手術推進の保守派であり、今回の実験的治療には否定的。
マクフィアソン副警備隊長 Deputy Warden McPherson
連邦保安官であるテディとチャックを案内する。
看護師マリノ Nurse Marino
ロールプレイ治療の一環として、失踪後戻ってきたレイチェル役を演じていた女性。
伏線回収
- シャッターアイランドに向かう船の中、船酔いで嘔吐するテディ
⇒単なる船酔いではなく、子供を溺死させられたことによる水へのトラウマ?
- 上着のポケットに入れておいたはずの 煙草がない
⇒そもそも収容患者なので嗜好品を含む火気類は持たせていないはず
- 孤島の病院にしては警備の数が多く厳重警戒過ぎる
⇒凶暴な患者レディスに対しての警戒
- 初めて来たはずの病院で柵に電気が流れていることを知っていたテディ
⇒患者として収容されている施設なので当然知っていた
- 銃を預ける際、もたつくチャック
⇒本来医師であるシーアンは銃の扱いに不慣れ。
- 入ってきたテディに対して手を振ったり親密な素振りを見せる患者たち
⇒患者として収容されており、顔見知りだから。
- 凶悪犯にも安らぎは必要なのかと問うテディに薄く苦笑いするチャック
⇒テディであるレディスこそが凶悪犯として収容されているという皮肉から。
- 院長に失踪したレイチェルの話を聞いている途中で頭痛を起こすテディ
⇒実際にレディスの妻ドロレスや子供達に起こった悲劇の話をされた事が刺激となり、過去がフラッシュバックしたため。
- 相棒の体調を必要以上に心配するチャック
⇒テディであるレディスの担当医シーアンなので彼の体調を気にかけている。
- 「4の法則 67は誰?」というメモを見つけた際、驚くほどアッサリ分からないと言いながら、意味があるはずというコーリー
⇒レディスの妄想を元に仕込んでいた暗号だから
- 非常事態でありながら危機感が全くなく、職員のデータを出し渋ったりと捜査に非協力的な姿勢
- 全くやる気の見られない捜索隊
⇒レディスの妄想に付き合っているだけであり、行方不明の女囚人など存在しないから。
- グレンに話を聞くテディの動きと共に職員達の動きが不自然になる
⇒レディスの凶暴性を知っている職員達の緊張感。
- コーリーの自宅で流れていた音楽がマーラーだと分かったテディ
⇒過去にダッハウ収容所解放の場に連合軍兵士として参加していたレディスが踏み込んだナチス司令官の部屋でかかっていたレコードもマーラーだったため。
- 初対面のテディに対して高圧的で暴力的と決めつけるナーリング医師
⇒ロボトミー肯定派で、凶暴で危険な患者であるレディスへの今回のロールプレイ治療は無駄なものだと思っているため。
- 酒を飲まないテディに対して「意外だ」と言ったナーリング医師
- ナーリング医師に個人情報提示を断られ激昂するテディに引き気味のチャック
⇒レディスの暴力的な面を知っており、彼の凶暴性が暴走すればロールプレイ治療も中断せざるを得なくなるため。
- 捜査終了を告げたテディに対し、遠まわしに続行を促すチャック
⇒レディスへのロボトミー手術施術を左右する最後のチャンスであり、一度限りの大掛かりな治療が不完全燃焼のまま終わってしまうことを避けたかった。
- 火事で死んだドロレスがテディの夢の中で水浸しで腹部から血を流しているシーン
⇒妻ドロレスの実際の死因は、子供達を湖に沈めずぶ濡れになっていた彼女をレディス自身が射殺したから。火事で亡くなったというのはレディスがテディに植え付けた架空の死因。
- 夢の中のドロレスが言ったキーワード「彼女はここに居る」「私はいないそれを受け入れて」「彼も レディスよ」
⇒これに対しテディはレイチェルが島内に居て、レディスという妻を殺した放火魔もアッシュクリフに居ると解釈したい気持ちがあるが、実際には自分達の子供を溺死させた妻の罪を被せたレイチェルという架空の存在はドロレス自身なので、ここに居て、テディを装っているレディスもまた自分自身なのでその場に居るという意味に繋がる。これは彼の夢の中の潜在的な記憶なので、自分自身がドロレスの姿を使って訴えているが、現実から逃避するために生まれたテディという存在は、目を背けたい事実を否定し無理矢理な解釈をしていると言える。
- レイチェルの治療法を聞かれた際、凶暴性を抑える薬を処方して隔離したところで自分の行為を認めようとしなかったと過去形で話すコーリー院長
⇒過去形で話したことをテディに指摘され、嵐の現状を見てこれでは死んでいると誤魔化したが、これはレディスに行った投薬治療が上手く行かなかったことを暗に示していたため。
- 患者であるピーター・ブリーンに聴取をした際、子殺しを罵るピーターに対し、鉛筆を擦り付ける動作を見せるテディと様子のおかしいテディを見守るチャック
⇒自分の妻であるドロレスが行った我が子殺しの罪を責められ、ひどく侮辱されているのを黙らせたかった潜在的な意識の中のレディスが行動したため。レディスは収容患者で、ピーターの事も知っていたので彼の嫌がる動作を覚えていた。チャックは医師としてレディスが怒りで暴走しないかを刺激しないよう注意深く監視していた。
- ピーターの次にカーンズという女性が聴取されるが、その直前に緊張した面持ちのナースと用意された注射器が映るシーン
⇒カーンズという女性患者のために用意されたものではなく、直前のピーターへの聴取の際に激昂したテディを見て、彼の凶暴性が止められなくなったいざという時の際に用意されたものだと思われる。
- 夫殺しについて語る時は饒舌だったカーンズが、レイチェルの話題を振られると言葉に詰まり、院長から聞いた話とそっくり同じ話をしシーアン医師の事を聞かれた際には一層緊張感を増し、不自然に彼を褒める
⇒実際にあった身の上話と、病院側から指示されたレディスの妄想の設定を思い出しながら話している違い。シーアン医師本人がチャックとして目の前に同席していたから。
- チャックが水を汲みに行った隙に、テディのメモ帳を奪い「逃げて」と警告を伝えたカーンズ
⇒その前後でカーンズが持っていたはずのグラスが映っていないことからテディの妄想と現実が入り混じった光景だと分かる。
- 墓場でチャックがテディにカーンズが何を書いたのか聞く、放火魔レディスを自分なら二度殺すねと発言する場面
⇒“RUN”と書かれたシーンはテディの妄想だった可能性が高いことと、シーアン医師の言動だとするとテディの凶暴性を引き出すような発言は避けたいはず、そして同じタイミングで降伏してきた大勢のナチス兵を惨殺する過去のトラウマシーンの回想が流れていることから、一連の出来事はテディの妄想の中での出来事や会話だったのではないか。辛い過去を抑圧するため、トラウマとなった出来事を想起する時には妄想が入り混じり逃避が強くなる傾向があるのでは。
- ジョージ・ノティスという犯罪者から聞いた話と政府が黒幕だという警告
⇒人体実験がされていると知っていたとすると、コーリー院長に保守派と革新派の話を聞いた際出てきたロボトミーに対して何らかの反応があったはずで、あまりにも唐突過ぎる。政府にハメられたんだというのが医師であるシーアンの発言だとすると意味が分からない。よって全てテディの妄想の中の会話。もしくは、繰り返し話していた妄想の中のシナリオ通りになるようテディに合わせて振る舞ったか。
- ハメられたと分かり「保安官の中でなぜオレが?」と言うテディ
⇒脱走事件を知って自分から捜査に志願したと言っていたテディ。そもそもの設定が架空のものなので矛盾が生じている。
-
職員から着替えを受け取った際にわざわざ煙草が支給される違和感
⇒煙草の中にはレディスが患者として投与されていた薬の成分が入っていたと思われる。二箱ともチャックに渡されたのも用法・用量の観点から担当医であるシーアンに預けたのではないか。
- 失踪していたレイチェルが戻った報せは本来真っ先に伝えるはずだが、会話の途中で唐突に知らされる
⇒レイチェル失踪事態がシナリオで、テディが暗号に言及した段階で次の段階に移る順序が決まっていた?
- 失踪から戻ったレイチェルと会話をする際、かなり動揺が見られるテディ
⇒深層心理の中にレイチェル=ドロレスという繋がりがあるので、亡き妻ドロレスと重ねて見ている。
- 会話の中で亡くなった夫とテディを混同するレイチェル
⇒一見、精神病で混乱しているだけに見えるが、病院側がテディに対する刺激を狙って妻のドロレスと被るように演技させていた。
- 次の瞬間「あなたは誰!」と激しく攻め立てるレイチェル
⇒本来の人格であるレディスを引き出すために訴えかけさせる演技。
- レイチェルに詰め寄られ呆然とするテディに何か囁きながら支えるチャック
⇒過度な刺激によって追い詰められたレディスを主治医として制御している。
- 光を異常に眩しがるテディと、テディの症状を瞬時に言い当て薬を飲ませようとするコーリー院長
⇒レディスとして日常的に投与されていた処方薬の禁断症状が出ている。
- 夢で話したレディスは、テディが話した放火魔レディスの容姿そのままで、テディを知っていたかのように話しかける
⇒夢の中で非現実的かつ暖炉が側にあることとマッチの火からテディの妄想の中の放火魔レディスが具現化した存在。
- 停電した状況でC棟への侵入を促すチャック
⇒レディスの妄想を踏襲するためにはC棟に収監されているという設定の放火魔レディスと接触させる必要があった。
- ビリングスに襲われている場面を見ていたチャックが、二人の元へ駆けつけた時「やめろ!テディ!何てことを…」と相棒を襲った患者の心配をする
⇒レディスという患者の凶暴性を知っていたから。
- 「ここに戻さないと言ったろ?約束したはずだ 嘘をついたな」「レディス?」「笑わせるな」「その声…」「この声を忘れたか?あんなに話をしたのに?嘘をつきやがって」「顔を見せろ」「連れ戻された二度と出られないマッチが消えるぜ」「お前の顔を見せろ!」「また嘘をつく気か?真実のために?」「そう真実を暴く」「あんたとレディス それが核心さ 俺は脇役 ただの糸口」「ジョージ・ノイス?あり得ない君がここに居るなんて」「よく見な」「誰がやった?」「お前さ」「バカな」「お前がしゃべったから連れ戻された」「刑務所からまたここへ?全部調べて君を助け出す」「一度は出られても二度出るのはムリだ」「なぜ連れ戻された?」「奴らはお見通しなんだよ!お前の計画のすべてをね お前のために仕組まれたゲームだ 真実を暴く?お前は迷路に放り込まれたネズミさ」「それは違うよジョージ それは違う」「そう思うか?ここに来て独りっきりの時が?」「相棒と一緒だった」「前に組んだやつか?」「あいつは…連邦保安官だ」「組んだのは初めてだろ?」「俺だって見る目はあるあいつは信用できる」「奴らの勝ちだな」「奴らは俺を灯台に連れてって脳を切り開く それもこれもお前のせいだ!」「ジョージ君を助け出す灯台には行かせない」「真実を暴きレディスを殺す?ムリだねどっちか選ばなきゃ」「俺は誰も殺さない」「嘘つけ!」「レディスは殺さないよ誓う!」「彼女は死んだ彼女は…忘れちまえ忘れるんだ言う通りにしろ忘れろ!彼女はお前をおかしくしてる彼女に殺されるぞ殺される真実を知りたきゃ彼女に構うな忘れろ!」「そんなことはムリだ!」「じゃ島を出られない」
⇒長くて分かりにくいが、たびたびマッチを擦って火のある状況になっていることからもテディの妄想が入っていることが分かる。ただし全てが妄想の中の会話ではなく、本来のノイスとレディスの会話にテディが自分の妄想に都合が良くなるようなやり取りが追加されているように見える。
レディスに半殺しにされたことで彼を恐れるノイスは彼と同じ棟に居る事を拒んでいた。現実の出来事を恐れ、自分に嘘をつき妄想の中で生活していたレディスを知っていた。テディとレディスが同一人物であることがキーで、自分の存在は重要ではない。お前の計画のすべて、つまり妄想のシナリオを病院側は熟知しており、その妄想を再現したロールプレイ治療を施されている。チャックは相棒ではなくシーアン医師であることももちろん知っている。現実に目を向ければテディ=レディスなのでレディスを殺すことは不可能である。亡き妻ドロレスに対する無念の気持ちが妄想癖の原因になっているので、彼女の行いや死を乗り越えなければ正気に戻れない。
- オープニングの船上シーンでも同じ会話があったが、チャックの出身地をポートランドと間違い、シアトルだと言い直されるやりとり
⇒真意は不明だが、チャックを疑ったテディがこのやり取りをした後、単独行動を決めたことから「シアトル」という答えはテディにとっては不正解のカマかけだった?
- 自分で着いてくるのを拒んだチャックに話しかけ、彼が居ないことに気付き焦るテディ
⇒精神的に不安定な病状。
- 崖下に見つけたチャックの遺体が消えている
⇒そもそも遺体を見つける直前に煙のあがる煙草を見つけていることや、あの断崖絶壁を素手で昇り降りするのは現実的ではないので全てがテディの妄想。
- 洞窟で出会ったレイチェルと名乗る女性
⇒焚き火があったことや、現実的に考えてこの女性が島の中を転々とし一人で生きているとは考えられない。そもそもドロレスの罪を擦り付けるために作ったレイチェルの存在そのものが妄想だったことや、娘の名前もレイチェルだったことを考えると本物のレイチェルが実在しているとは考えにくい。
また、先ほどまで薄明るかった外の景色だが、洞窟から見える空模様はかなり暗くなっているようにも見える。
- 「アミタールとアヘンを使った幻覚剤」と聞いて即座に「精神治療薬だね」と答えるテディ
⇒保安官にしてはやけに詳し過ぎる。自分が患者として投薬されている経験があるから。
- テディに警告を唱えるレイチェル
⇒幻覚に続き、分裂病特有の被害妄想からきた設定。
- やたらと「暴力」について語り、「院長は君を無害と思ってるが私は違う 君の事は知ってるさ」と話す警備隊長
⇒レディスの凶暴性を知っており、院長が推進する今回のロールプレイ治療に否定的な保守派の人間だから。
- 患者までもが会議に参加していた様子
⇒一部の患者も参加しているロールプレイ治療中にレディスがビリングスという患者に危害を加えたためか。
- 「ここでの価値ある試みはなかなか理解されない 人はすぐ簡単な解決法に飛びつくからね理解されなくとも私はあきらめずに闘う」
⇒直前にレイチェルから聞いた人体実験による人間兵器開発をミスリードさせているが、本来はロボトミー手術肯定の保守派に反対される中でより人道的なロールプレイ治療を推し進めようとする院長の本音。
- チャックの事を聞かれて「相棒って?」ととぼけるテディを指さし笑うカーンズ
⇒テディが予想通りの反応を返したため。
- フェリーに乗って島を出るように言うドロレス・佇む一人の少女。
⇒テディ目線でしか存在しないドロレスの幻影。マッチもある。車の爆破自体が彼の妄想の中の出来事で、爆破に気付き駆けつけようとする警備隊達は、ナーリング医師に注射を打ち行方をくらませていたレディスの姿を発見しただけかもしれない。
ただし、その後院長自身が「愛車が木っ端微塵だよ」と発言しているので、彼が灯台に辿り着くまでの妄想として車を爆破させるシナリオが繰り返されているから、とするのは深読みし過ぎか。
- 灯台に辿り着いたテディに「ビショ濡れだよベイビー」と言うコーリー院長
⇒レディスがかつてドロレスに対して言ったセリフで彼の記憶を刺激しようとした。
- 手の震えがどんどん酷くなっていくテディ
⇒頭痛と同じく、二年間投与されてきたクロルプロマジンという薬の禁断症状。
- 灯台で倒れた後、起きると側に居た看護師が失踪して戻ってきたレイチェルと同じ人物
⇒病院側が用意した妄想のレイチェル役を演じていたのはナースだった。
“THE LAW OF 4 WHO IS 67?”
序盤に出てくる暗号めいたメモ書きにあった “THE LAW OF 4 WHO IS 67?”「4の法則 67は誰?」とは。
この「4の法則」というのは4人の名前がアナグラムを使用し、綴りを組み替えられて作られた事を意味しており、ABC棟合わせて66人の患者が収容されているので67番目の患者はテディ(=レディス)自身と読み取れる。
“テディ”という愛称で呼ばれているので多少分かりづらいが、アナグラムの詳細は以下の通り。アルファベットで13文字を使った綴り替えが使用されている。
余談だが、本作のタイトルにもアナグラムが使われている。
《SHUTTER ISLAND》を並べ替えると《TRUTHS AND LIES》となり、
「真実」と「嘘」という意味になる。
ここで言う「真実」と「嘘」は、それぞれ「現実」と「妄想」の意味合いを持つ。
現実と妄想が入り混じった世界で生きるテディ。現実を生きるか妄想の世界に逃げるか。何が現実で何が妄想なのか。様々な意味での《TRUTHS AND LIES》がこの作品の中に散りばめられている。
更に、別の並べ替えでは
《TRUTHS DENIALS》となり「真実」を「拒絶」
というダブルミーニングになっている。
ラストシーン考察
現実を受け止めたレディスだったが、中庭に座りやってきたシーアン医師に「島を出ようチャック」と囁く。シーアン医師は遠巻きに見守る理事達に首を振り何かを伝える。手術道具のアイスピックを手にした職員がレディスに近づいて来る中でレディスは言う。
「ここにいると考える どっちがマシかな?モンスターのまま生きるか善人として死ぬか」と意味ありげな表情を浮かべ、やってきた職員の元へ自ら向かい連れていかれたレディス。
ここではシーアン医師に対し「島を出ようチャック」と呼びかけ、彼がまたテディに戻ってしまった描写があったが、彼は本当にテディという人格に戻ってしまっていたのだろうか?
最後の台詞は、レディスの発言でなければ不自然なのだ。
「モンスターのまま生きるか、善人として死ぬか」
つまり、精神病を抱えた妻殺しの収監人物アンドリュー・レディス本人として生きるのか、放火魔によって妻を殺された連邦保安官という正義の立場に居るテディのままロボトミー手術を受けて廃人となるのか。
完全にテディになりきっていればこのように意味深な台詞を残す思考に至らないのだ。
ダッハウ強制収容所で見た悪夢のような光景や、妻が溺死させてしまった子供達、その妻を自身の手で殺めた記憶など、トラウマの数々がそのまま蘇ってしまっている。
別人格になってまで目を背けたかった現実がダイレクトに頭に入り込んでくるというのはどれほどの苦痛なのだろう。
正気を取り戻してしまった今、大き過ぎる苦痛から逃れるためには彼にとって何が必要だったのか?「別人格を創り上げる」こと以上に彼を助けられたのは、もはや「何も感じずに居られる」事しか無かったのだ。
レディスがレディスでありながら、テディとして振舞うことでロボトミー手術を余儀なくされる。ロボトミー手術を受ければ廃人のようになるがそれはまた、傷みすらも感じなくて良い。
本来の自分を取り戻したレディスとして、苦痛と向き合いながら生きていかなければならないことを拒んだ彼に薄々気が付きながらシーアン医師は彼の選択を尊重したように見えた。
正解は提示されていないので、洞窟に潜んでいたレイチェルが妄想の中の人物ではなく、実在していたリアルな存在だと仮定すると、このラストのテディのセリフに対する解釈は少し変わってくる。テディはこの島内の怪しい洗脳に自分がハメられている事に気付いており、しかしそれに気付いてしまった時にはもはや手遅れである事を悟っていたのだ。「モンスターのまま生きる」とは、どんどん洗脳されていき本来の自分を見失っていく自分の事を指し、「善人のまま死ぬ」というのは、少しでも自我が保てている今の自分のまま抗い続けた結果、排除されてしまうことを指す。
この場合のレディスとテディの位置づけは全くの逆になるのが興味深い。“レディス”は病院側が用意した架空の設定で、テディが彼自身なのだ。この場合、病院側が用意した洗脳したいレディスを演じていれば生かしてもらうことができる。だが自分を貫き通すため、最後まで本来のテディとしての道を選べば、洗脳は失敗に終わり、病院側にとって都合の悪い自分は消されてしまう。それを分かりながらなお、自身を信じる姿勢を曲げなかった。
正直、洞窟の中のレイチェルに関しての不自然な点がなければこちらの解釈で考察した方がラストシーンはしっくりくるような感じがする。
評価(平均点高めの設定です。)
4.9 /5 点!
概要
監督:マーティン・スコセッシ
時間:2時間18分
提供:パラマウント
公開年:2010年
- 出版社/メーカー: パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
- 発売日: 2012/09/14
- メディア: DVD
- この商品を含むブログ (5件) を見る