彼女が目覚めるその日まで
あらすじ
ニューヨーク・ポスト紙で働く21歳のスザンナは、プライベートではミュージシャンのスティーブンと付き合いはじめ、公私ともに充実した毎日を送っていた。そんなある日、突如として物忘れがひどくなり、大事な取材で大失態を犯してしまう。さらに幻覚や幻聴にも悩まされるようになり、ついには全身が痙攣する発作を起こして入院することに。検査しても異常は見つからず、医師たちは会話すら出来なくなったスザンナに精神科への転院を勧める。しかし両親やスティーブンは、彼女の瞳の奥の叫びを感じ取っていた。
「キック・アス」のクロエ・グレース・モレッツが主演を務め、原因不明の難病に冒された女性記者スザンナ・キャラハンの闘病記「脳に棲む魔物」を映画化した人間ドラマ。共演に「キングコング 髑髏島の巨神」のトーマス・マン、「マトリックス」シリーズのキャリー=アン・モス、「ホビット」シリーズのリチャード・アーミテージ。女優シャーリーズ・セロンが製作で参加。
ネタバレ感想
感想を書くつもりなく視聴しましたが、思わず書きたくなるような、より多くの人々がこの恐怖を認知しておくべきだと感じるような作品でした。
ニューヨーク・ポスト紙で働く弱冠21歳の〈スザンナ〉は憧れの職につき恋人を家族に紹介したりと、まさに順風満帆な生活を送っております。
しかし彼女を突如襲った変化はまさに『異変』と呼ぶに相応しい得体の知れない動きでした。
幻覚、幻聴、不眠、落ち込み、多幸感、被害妄想などなど身体に異常をきたしながらも病院でMRI検査をした結果は異常無し。
飲むことのない酒を減らすよう指示されるだけに終わるも、どう考えても正常ではないのが見て取れるスザンナに恐怖すら感じます。
ボーイフレンドの〈スティーブン〉が深夜にけいれん発作を起こしたスザンナを救急病院に連れて行った事がきっかけでその異変が家族にも伝わります。
職場では奇行に走り、同僚からは遠巻きに冷ややかな目で見られる騒動も起こしてしまいました。
家族はスザンナを一時引き取るのですが、あまりの奇行、異常な言動にカウンセリングを受けさせたりもしましたが、何か原因があるはずだとなかば強引に入院を要求。
あらゆる精密検査をしても分かったことは『完全な健康体』であること。しかし目の前の娘はどう見ても何かしらの病を患っているようにしか見えないのです。
医者チームから精神科に転院させると言われても、これまでそんな陰りは一切見えなかった娘が突然精神病認定されたところで信じられるはずもなく猛反発。
絶対に精神病なんかじゃないとプレッシャーをかけ続ける両親を見るに、映画の上ではきっと何らかの異常がどこかに隠れているのだと読めるのですが、この状況が実際に身近にあれば彼女の症状は統合失調症にしか見えませんし、医者に怒りをぶつける両親の足掻きは『娘が精神病だと認めたくない親の意地』だと思われがちな状況そのものなのです。
あまりの熱意と周囲の人々が疲弊する中サポートし続ける様子を見て、一人の女医が医師を引退し教師をしているという男性に助けを求めます。
この男性が時計と1〜12までの数字をかかせるという検査で、明らかに精神病患者では描かないであろう円の右側に数字を詰め込んだスザンナの描き方に着目し、脳の半球の炎症からくる症状によるものだと診断してくれました。
諦めかけていた中、脳の組織を取り出し検査をした結果『抗NMDA受容体脳炎』という病名のつく、世界でまだ216件しかケースのない病であるとようやく辿り着きます。
1ヶ月以上入院していて話すことも歩くこともままならないような状態ではあったものの、この発見時にはまだ初期段階だそうで90%は認知能力も戻るとの朗報も。
初期段階でここまでの苦しみを味わうなんて本当に得体が知れなくて恐ろしい上に、どんな検査をしても正常だと認定されてしまうような隠れた場所に潜んでいる、誰にも理解されないまま自分が自分でなくなっていく、という恐怖が凄まじいです。
その後スザンナは順調に回復し、なんと7ヶ月後には職場復帰まで果たしたらしいのですが、これは本当に娘を信じ続けた両親の粘りや寄り添ってくれた恋人、柔軟で寛容に対処してくれた上司といった周りの人々のサポート無しではあり得なかった奇跡の結末ではないでしょうか。
エピローグで語られたように、これまで何人の人々が抗NMDA受容体脳炎を患いながら精神病棟送りにされたのか、と考えるとゾッとします。
長らく海外では抗NMDA受容体脳炎患者が『悪魔祓い』されていたような過去があったり、日本でも『狐憑き』と呼ばれるような特定不能な異常だと考えられていたとの事。
この前提を考えれば、本作品で『いかにして治したか』ではなく、『原因不明の病を突き止めるまで』に重く焦点が当てられ描かれていた事にも納得です。
スザンナを演じたクロエ・モレッツのチャーミングさはもちろんですが、ここまで演技が上手い印象が正直無く、迫真のパニック発作に始まり衰弱していく様子までの全てがリアルで胸に突き刺さるものがありました。
評価(平均点高めの設定です。)
4.3 /5 点!
概要
監督:ジェラルド・バレット
時間:1時間29分
配給:KADOKAWA
公開年:2017年
彼女が目覚めるその日まで [ クロエ・グレース・モレッツ ]
▼Amazonプライムビデオでも視聴可能です。