誰でもない女
あらすじ
第2次世界大戦時のナチスドイツによるドイツ民族の人口増加計画「レーベンスボルン(生命の泉)」を背景に、ひとりの女性の数奇な運命を描いたサスペンスドラマ。
ドイツ占領下のノルウェーでドイツ兵とノルウェー人女性の間に生まれたカトリーネは、出生後に母親から引き離されて旧東ドイツの施設で育つ。成人後に命がけで亡命し、母親との再会を果たした彼女は、現在はノルウェーで母親と夫、娘や孫に囲まれて平穏な日々を送っていた。ベルリンの壁が崩壊した1990年、カトリーネと母親の元に弁護士スベンが訪ねてくる。かつてドイツ兵の子を産んだ女性を迫害したノルウェー政府に対して訴訟を起こすため、2人の証言が欲しいというのだ。しかしカトリーネは証言を拒否してドイツへと旅立ち、自分の過去の足跡を消すような不審な行動に出る。
ネタバレ感想
昔、トリイ・ヘイデンのひまわりの森という本に出てきた『生命の泉“レーベンスボルン”』と呼ばれるナチスの人口増加計画がかなり印象に残っておりましたが、この映画もレーベンスボルンと、かつてドイツが東西に分断されていた頃の東ドイツ国家保安省、秘密警察“シュタージ”が題材となっております。
大恐慌の影響からドイツでは堕胎が流行していたという背景もあり、ナチスがより純粋なアーリア人を求めて子供を産ませるための支援施設を作り、志願して入所し親衛隊と婚姻関係を結ぶ者もいれば、欲しい血筋の女性を拉致してきて暴行するのが当たり前という女性用強制収容所のような環境もありで、複数ある施設の内情は様々だったようです。
そしてそこで産まれてきた子供たちは出生後すぐに母親の同意すら無く取り上げられてしまう、と。かなり大雑把に言うとレーベンスボルンはこういった感じの政策だったのです。
ここに出生のルーツを持つ子供達には何の罪もないものの戦後にはやはり世間からの風当たりが強い存在だったそう。
主人公〈カトリーネ〉もレーベンスボルン計画で生まれてきて母親と引き離されて施設で育った子供だと言うことですが、シュタージの諜報員として活動する二重生活を送っています。
そんな中、レーベンスボルンの被害者の政府に対する集団訴訟が行われるらしく、唯一実母と再会できた特例のカトリーネにも証言の協力が欲しいと若き弁護士〈スヴェン〉が接触してきたことでカトリーネの保ってきた日常が崩れ始めていく…という流れ。
カトリーネにはシュタージのスパイであると共に大きな秘密があり、大前提に、娘として再会したはずの母親は実は赤の他人で、諜報活動の一環として民間人の家庭に潜り込んでいたのです。
〈オーゼ〉の実の娘が母親との再会を求めて、自分に成り済ました諜報員が生活しているとも知らずに自宅を訪ねて来てしまいます。
自分の身分を隠してやんわりと彼女を尋問したカトリーネは、必ずオーゼに会わせてやらなければと感じるのですが、カトリーネの雇い主でもあるシュタージ達が踏み込んできて、本物のカトリーネを逃してやろうとするも目の前で射殺されてしまうのです。
長年騙されていた挙句、実の娘を殺されたも同然と聞いた時のオーゼの心境も、母親との再会も愛する夫との結婚も全てが嘘にまみれていながら、愛情だけはしっかり本物なカトリーネも、どちらもが歯痒いなぁ。
実際にこういった諜報活動が行われていた事も、そもそもレーベンスボルンという計画を政府が推進していた過去も、何もかもがフィクションにしか思えない状況なのですが、これが現実に起こった事実だというのですから闇が深い…。
陰謀めいたラストシーンにしても、不利な情報の隠蔽のために犠牲になった人々も少なくは無かったのだろうな、と思うと彼女達の人生は一体なんだったのか…まさに『誰でもない女』という邦題が秀逸に感じました。
評価(平均点高めの設定です。)
4.2 /5 点!
概要
監督:ゲオルク・マース
時間:1時間40分
製作年:2012年