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映画感想≫≫Escaping the Madhouse: The Nellie Bly Story エスケーピング・マッドハウス

エスケーピング・マッドハウス

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あらすじ

「私はネリー・ブラウン」。ニューヨークのブラックウェル島精神科病院に収容された女性が唯一覚えていたのは自分の名前。この彼女の正体は、不穏な噂がある精神科病院の実態を潜入取材しようと試みた

ネタバレ感想

ブラックウェル島 精神科病院は一度入ったら最後、人間用ネズミ捕りだ ーーネリー・ブライ

の引用で始まり、実話なのかな?と軽い気持ちで見始めると、これが本当に実話なのか…?と愕然としてしまうような内容でした。

 

心神喪失状態でさまよっていたところを保護されニューヨークのブラックウェル島に連れて来られた〈ネリー・ブラウン〉が唯一持つ記憶は自身の名前だけ。

新聞記事に写真を載せ続け、世間から“ブラックウェル島の謎の女”と名付けられるも彼女の身元が判明するような人物は一向に現れません。

施設を牛耳るのはいかにも厳格そうな老婆〈グラディ寮長〉と三人の看護師達。

 

鬱血するほどきつく締められた靴には鍵をかけられ、統制と治療の名の下に“しつけ”が行われるこの閉鎖空間の現状はあまりに過酷なものでした。

豪勢な職員の食事と比例するように、収容患者の食事は『ドロドロした何か』と呼ぶしかないような原型を留めない流動食のみ。

何がなんだか分からないまま目覚めたらここに居た者、『安静療法』と言われて来た者、生活費が底をつき連れて来られた者、英語が話せないから収容された者…その理由はさまざまですがどれも違法じみていて入ったが最後の『人間用ネズミ捕り』とはよく言ったものです。

 

まともな思考能力を持っていた大半の人々すらクロラールやモルヒネを注射されて朝から晩まで座っている事を強要させられたり寮長の気が済むまで無意味な労働を強いられる事もしばしばで、そのうちに本当に壊れてしまう患者も少なくないのだとか。

 

新しく赴任してきた精神科医〈ジョサイア先生〉は、ネリーの精神状態を気にかけ、少しでも記憶が戻るようにと積極的ですが、そんなに肩入れするか?という胡散臭さもあり、それでもグラディ寮長との対立は本物っぽいしで敵か味方か断定しづらい分、見ていてある意味ハラハラします。

 

名家であるホリスターの人間〈ロッティーが入所してきて、自分の危険を顧みず不自然なほど彼女に親切にしてやるネリー。

赤ん坊を恋しがるロッティーのために、使用禁止になっている寮長のロッキングチェアに座らせてやりたいから同行してくれないかとジョサイア先生に頼むネリー。

ロッキングチェア一つで全患者が集まって大騒ぎになるのを見るだけでどれほどに娯楽と無縁で抑圧された環境下に置かれているかが分かります。

その騒ぎに乗じてなんと寮長の部屋に忍び込みロッティーの赤ん坊のブランケットと自分の手帳を見つけ出して盗んでくるネリーには頼むから大人しくしててくれよ…と思いますが、結局バレてしまった上にロッティーを助けようとして自ら白状するネリー。勇し過ぎる…。

盗みに加えてジョサイア先生との関係に言い掛かりを付けられたネリーは全身を拘束され、大人数人がかりで無理矢理処置室へ連行されます。「血を浄化して色欲を取り除くため」と言って、生きたヒルに血を吸わせるという拷問のような『治療』なのだから恐ろし過ぎます。

 

さすがのネリーもジョサイア先生の元へ通わなくなるのですが、このドクターがわざわざネリーの様子を見に来てしまうんですよねぇ。

記憶を無くした彼女の症状と似た症例があって『酸素欠乏症』が原因なのでは?とか言って親身になってくれてはいるものの、看護師に見張られてる前で余計な近づき方するな、という感じで…。

 

ジョサイアは近づけなかったネリーですが、彼女の反骨精神は並大抵なものではなく、徐々に情緒が不安定になってきたロッティーを庇うために患者全員を巻き込んで騒ぎ散らかします。

その結果、「シラミが居たから騒いだのだ」とされて、いるはずもないシラミの駆除を名目に全員髪の毛を切らされる羽目に。

ここでもまたジョサイアが出てきて寮長とかなりの言い合いになった末に代替え案として『頭皮に油を塗る対処法』を教えます。

これがまさかあんな事件に繋がるとは…。

 

ある日、ジョサイアの元に“謎の女”の話を聞いたドリスコル家の人間が訪ねてきます。

「捜し人は“ネリー・ブライ”だが似ているし行方不明になった時期も同じだ」と語る〈バーソロミュー・ドリスコル〉は、ネリーを「人生で最愛の人だ」と称します。

彼がネリーの特徴を話せば話すほど自分の患者が捜し人に当てはまると勘付いていたジョサイアは、バーソロミューが〈バット〉と呼ばれていると聞いてその疑惑が確信に変わります。

どうしても自分の目で確認したいのだと話すバーソロミューに対して「残念ですがちょうど昨日彼女は家族が迎えに来て既に施設を出た」と嘘をついて彼を帰らせたジョサイア。

やはりこの親切過ぎる男に潜む胡散臭さも本物だったというわけです。

あの日記に書かれていた施設の悲惨な内情を示すメモ書きから察しはついていましたが、ネリーの素性は作家で記者だったらしく、ますます陰謀説が高まってまいりました。

病棟で催された舞踏会では患者であるネリーをダンスに誘ってそれはもうイケナイ雰囲気です。寮長と看護師の視線が恐ろし過ぎる。

 

唯一良心を持ち合わせている看護師〈フェントン〉は、世間を騒がせている“謎の女”の正体がネリーなのだと分かるとたびたび協力はしてくれるのですが、漁師で船を持つ弟に迎えに来てもらってこの孤島を脱走する計画が頓挫した事を悟ると同時に保身に走って「脱走者を見つけた!」とネリーを売ることに。まぁ…元々は本気で助けようとしてくれてたようだし騙されたわけではないので、そりゃそうなるかなぁ…という感じ。

 

連行されてまたもや仕置き部屋行き確定かと思いきや、ジョサイア先生が「僕が預かる」と割って入ります。

しかしグラディ寮長も黙ってはおらず、調査済みだったジョサイアの過去を明かしました。

ブルックヘブンから転勤してきたジョサイア先生は、その前にロンドンの施設を解任されているらしく、一人の患者に執着する節があるのだとか。なかなかの変態です。

イカれ寮長と変態医師が敵対関係にありつつも、その両方がネリーの敵という八方塞がりな状況だったとは。

ここへ来てネリーにもようやく自分の記憶が呼び覚まされてきました。

ワールド紙に売り込むための潜入取材の最中に“治療”を受けさせられたネリーはその影響で記憶を失くしてしまっていたようで、恋人に残した手紙がこのタイミングでやっと届きます。

ワールド紙の〈ジョゼフ・ピュリッツァー〉に「ネリー・ブライに危険な潜入取材の手引きをしたな!」と詰め寄るバーソロミューですが、ピュリッツァーはどこ吹く風。

学友に競合紙の記者が居るから彼にネタを売るぞと脅してようやく詳しい話を聞き出せたよう。世の中コネです。

 

箱に閉じ込めてそのまま水槽に沈めるというとんでもないやり方。こうして『酸素欠乏症』に陥らせて記憶を消すという“治療”が繰り返されていたわけですか。

一歩間違って殺してしまおうが、それはそれで良しとでも言いそうな冷酷さ。

 

そして、この一連の流れがたった10日間に起こった出来事だったというのがダブルで衝撃です。

全てが記事になり、『マッドハウスでの10日間』という潜入調査による自伝も出版されて、女性初の有名記者となったネリー。

もちろん大規模捜査後に精神科病院は閉鎖となり、現在では『ルーズベルト島』に名前を変えて1万2000人ほどの住民があの場所に暮らしているそうです。

著書『マッドハウスでの10日間』はかなり興味をそそられるので読んでみたいと思い調べてみましたが、“Ten Days in a Madhouse”しか出てこないので日本語翻訳は出版されていないようで断念。

いやぁ…それにしてもイカれたサイコババァに支配されている系のホラーかサスペンスだろうと思って見たてみたら、確かにイカれたババァのサイコホラーには違いないもののまさかの実話だったとは…!

目の前で焼身自殺とかのくだりも実話という事ですよね…とにかくヒェッとなりっぱなしの90分でした。

評価(平均点高めの設定です。)

 4.4  /5 点!

事実は小説よりも奇なりを体現していて一見の価値ありです。

概要

監督:カレン・モンクリーフ

時間:1時間28分

公開年:2019年

エスケーピング・マッドハウス

エスケーピング・マッドハウス

  • メディア: Prime Video
 

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