私が、生きる肌
あらすじ
画期的な人工皮膚の開発に執念を燃やす形成外科医ロベルは、かつて非業の死を遂げた最愛の妻を救えるはずだった「完璧な肌」を創造することを夢見ていた。良心の呵責や倫理観も失ったロベルは、ひとりの女性を監禁して実験台にし、人工皮膚を移植して妻そっくりの美女を作り上げていく。
ペドロ・アルモドバル監督とアントニオ・バンデラスが「アタメ」(1989)以来22年ぶりにタッグを組み、最愛の妻を亡くし禁断の実験に没頭する形成外科医と、数奇な運命をたどるヒロインの姿を描く問題作。
ネタバレ感想
いやぁ…とんでもない物を見てしまったなという気分です。
とにかく狂気が半端じゃない。
冒頭から若い女性が屋敷の一室に軟禁されている不穏な気配を孕みつつ進んでいきます。
ストーリーが進むに従って、主人公の凄腕形成外科医〈ロベル〉は12年前に妻を酷い火傷からの自殺で亡くした過去がある事、その影響で元々精神科にかかっていた娘を強姦された後、母と同じように窓から身を投げして亡くしてしまったという不幸な身の上が分かってきます。
それじゃあ一体『誰か』にソックリな軟禁された女性は誰なのか?となるのですが、中々仰天展開がここに待っているわけです。
主人公は、娘がまだ亡くなる前に娘を強姦し追い込んだ青年〈ビセンテ〉を特定し拉致監禁します。
最初は鎖に繋いで飢餓と孤独の極限状態に追い込むロベルでしたが、復讐計画はここからが本番で、ついていたモノを取っ払ってしまうどころか、膣形成手術を施します。更には亡き妻そっくりに顔も整形してしまうマッドドクターっぷりを発揮しながら終始淡々としているのが更なる狂気を生み出しているのです。
すっかり美女となり〈ビセンテ〉改め〈ベラ〉と名付けられた元少年。彼女こそが監視カメラ付きの部屋に閉じ込められていたあの女性です。
ここまでだと百歩譲って最狂の復讐劇で済むのですが、狂気は続き、ロベルは亡き妻のクローンのように仕上げたベラに歪んだ愛情を見出しており、ベラもまたそれに応える場面も多々ある倒錯っぷりが味わえます。
彼女の存在を知る者は、ただ一人屋敷の使用人を務める初老の女性〈マリリン〉だけなのですが、何故かこの狂気を容認しているばかりか、強盗で警察に追われる身となり突然乱入してきた末ベラを見つけ襲い掛かり、事が終わったと同時にロベルに殺されたロクデナシの屑男の母親でありながらベラ諸共「二人とも殺してしまいなさい」と念じているのですから違和感が否めません。
この息子はかつてロベルの妻を寝取りそのまま駆け落ちしようとした道中で自動車事故に遭いそのまま逃げたらしく、全身に火傷を負った妻をロベルが助け出し介抱していた末に身投げでなくなったという経緯があります。
そしてマリリンは実はロベルの血の繋がった実の母親でもあり、これはマリリンだけが知ることのようです。
負の連鎖というか業の深さがヤバくないですか?息子二人ともかなりイカれており気の毒婆さんにも見えますが、この婆さんもよほどのものです。
最終的にベラは、男だった頃の自分が行方不明者として新聞に顔写真と名前付きで掲載されている記事を見た事をきっかけとして積年の呪縛から逃れようとロベルとマリリンを射殺し、母の経営する洋装店に帰り着きます。
ここまで底無しの狂気を見せつけたからにはベラも自殺する流れかと思いきや、最後の最後で感動物語みたいになって面食らいました。
前半の「ヌードマウスで実験した」と言いながら実際にはビセンテを使って人体実験の末生み出した技術を学会で発表したり、遺伝子操作に対しての倫理観がとことん欠如した一面が見えたりという主人公から溢れ出す触れてはいけない恐ろしさのようなものを感じさせるのが非常に良かったです。
何というか…とにかく『変態』な作品でした。
評価(平均点高めの設定です。)
4.3 /5 点!
概要
監督:ペドロ・アルモドバル
時間:120分
公開年:2012年