『第7話 スターツ・デザート・ピー』“Part 7: Sturt's Desert Pea”
あらすじ
肉体的・精神的に追い込まれたアリスだったが苦悩しつつ前に進んで、愛することや自分自身と家族を許すことを学んでいく。そしてついには、自分自身の声をあげていくための強さを身につける。
ネタバレ感想
花言葉は『勇気を出して 心を強く』
包丁片手に籠城して一夜をやり過ごしたアリス。ルルが来てくれたことでホッとしたのと同時に取り繕わねばとパニックになったアリスは、ちょっと誤解があってキレられただけでディランに電話しなきゃ……と。
冷静なルルは、あまりに酷い有様のアリスを写真に撮って、「自分が今どんな状態か見て」とアリスに現実を突き付けてやります。
話を聞くと、ルルも嫉妬深過ぎるディランに苦しめられた過去があったけれど恋人ではなかった分アリスほど酷い目には遭わなかったようです。
泣き寝入りで奴がお咎めなしなんておかしいというルルのおかげでアリスも上司に相談しますが、周到なディランは先回りしており、『アリスに対する深刻な申し立て』をして行ったと聞かされることに。
その内容は、アリスが暴言を吐き暴力を振るったと正当防衛によって受けた傷をさもアリスからの暴力があったよう仕立て上げた上に、仕事を得るために資格や学位を偽った、子供の頃に火事を起こした話まで申し立てていたのです。
あまりの衝撃に笑うしかないアリスですが、ベテランで4年間一度も問題を起こさなかったディランと、この町にやって来たばかりの新参者な上に尋ね人の貼り紙まで出回っているアリスとではかなり不利なのが現実。
正式な調査が済むまでは停職を言い渡され、「警察に連れて行く」と味方になってくれたルルや「ツアーに一緒に参加して」と言ってくれるルビーだけが救いでしょうか。
しかし情緒不安定なアリスは、注意喚起に従わず公園の花を取っていこうとする観光客に激怒して思わず掴みかかるような騒ぎを起こし、ますます自分の立場を悪くしてしまいました。
ツアー客はその光景を動画に撮って拡散しており、同僚連中もほぼほぼディラン擁護派へ。
どうしようもないほどに追い詰められたアリスは泣きながらツイッグに電話して、そばにいたジューンとも電話を代わり「家に帰りたい」と訴えました。
ツイッグに連れられてすぐにアリスを迎えに行ったジューンは、その足でモーガン家を訪ねることを決めて、アリスに長年の嘘を打ち明けます。
弟は火事で死んでおらず、早産で生まれた子は身体が弱かったけれどシドニーで治療を受けた結果生き延びたこと、病院でアリスの面倒を見ていた司書のサリー・モーガンのところへ養子に出したことを淡々と説明。
至極当たり前の反応ですが、やはり事態をうまく飲み込めないままに激怒したアリスは、昂る感情が冷めやらぬまま幼い頃に裸足で辿り着いた図書館へ。サリーと再会したアリスがあの頃と変わらぬ傷付いた少女のままというのが何とも不条理です。
チャーリーは姉に会える日をずっと待っていたのだと聞かされ、心の準備もそこそこに
てっきりアリスが手を加えた書き込みだと思っていたのですが、あの人魚の絵本の単語に引かれた下線は、クレムの監視の目を盗みながらサリーがアグネスとやり取りをしていたものでした。
これまでずっと自分を差し出しても声を上げられなかった母親像をどこかで持っていたアリスでしたが、実際にはアリスと弟を安全な場所に連れて行こうとしていたのだとサリーは語ります。しかも夢見ていただけでなく、具体的に計画していて逃げる場所も全てこの絵本の中に書いていると言って、最後のページに描かれた花の絵と“ワイルドな花たちが咲く場所”というソーンフィールドの看板に書かれていた文字が添えられているのを見せてくれました。
アリスは決して傷付いた“花”としてあの場所へ帰らざるを得ないわけではなく、母親が望んだ安全な場所を自分で選んで行き着いていた、と。
自分のせいで計画が台無しになったと泣き崩れるアリスに、サリーはチャーリーにも見せたと言っていた検視報告書を見せてやります。
そこには、小屋でボヤが発生してからの真実が鑑識結果と共に書き記されておりました。
ボヤを起こして自室に逃げ込んで震えていたアリスはクレムに見つかり、今にも殺されそうなほど首を絞められ、そこでアグネスはいよいよ子供を助けるためにクレムを背後から殴り倒してアリスを助けていたのです。
その後、アリスが抱えて来た燃料をまいて火を付けたのもアリスではなくアグネスでした。自分が火をつけたせいで家族は死んだと思い込んでいたことや、母親は父の暴力から助けてはくれなかったという誤解が長年の時を経て解けた瞬間ですが、どう転んでも結果あまりに辛い過去に変わりはありません。
全ての真実を知り、弟との対面を果たしたアリスがひと言も発さずただただハグを交わしたシーンは、やり場のない感情やら亡くなったと思っていた家族と会えた喜びやら、複雑な感情が交錯するとどんな言葉にもならないというリアルさを感じます。
アリスはその後もモーガン家に残り、弟との時間を取り戻すように過ごしているそう。
ソーンフィールドで“花”たちに囲まれながら息を引き取りそうなジューンに付き添わないという選択も、なるべくしてなったと思えるものです。
ただ、ツイッグからジューンは長くないとの伝言もあって、嘘だらけのジューンを許せる気持ちがないからこそアリスはさぞ心が重くなっていることでしょう。
死の淵で初めて、ジューンがクレムを追い出すに至った回想が明かされ、あくまでもキャンディ・ブルーの気持ちを汲んでクレムを追い払おうとし、激昂した息子から首を絞められ殺されかけたところでツイッグが助けに入り、彼はアグネスを連れてソーンフィールドを去っていた経緯が分かりました。
だからと言って、ジューンのしてきた所業がマルっと許せそうにはありませんが。
完全な寝たきりかと思いきや、身を起こしてアリスへの手紙を綴るジューン。
ディランからの「会いたい」というメールに「私も会いたい」と返してしまう共依存体質なアリスにいち早く気付いたサリーは忠告を与えてくれていますが本当に大丈夫か?
ジントニックとチップスを欲しがる婆さんなんて、この先100何ぐらい生きれそうに感じますが、現実はそうもいきません。
アリスからの着信に気が付かないまま、ジューンは逝ってしまいました。
訃報を受けてモーガン家と一緒にソーンフィールドに帰り着いたアリスは何を思うのでしょう。
ジューンが“花”たち全員に宛てた手紙が配られます。
キャンディ・ブルーやツイッグへのそれぞれ心抉られるような愛のこもった手紙に続き、最後に書き上げていたアリス宛の手紙には、『私たちが沈黙を貫けば彼らが勝つ、小屋の中にアリスに残した“失われた花たち”の本がある』と書かれており、ジューン自身が暴行を受けて声を失うも、記録を残し続けることで声が戻ったことも。
家族や大切な相手であっても、それが理不尽な暴力なら辛くても屈する事なく声を上げろというジューンからのメッセージです。
追悼のために燃やされたあの小屋を見ながら決意を固めたアリスは、強い心で動き始めることでしょう。
全7話なのに、ようやく終わった……と感じるほどヘビーでした。
最初の頃はそれこそ1話1話が長く感じ、終盤にかけては一気見してきまうほどの重厚感が。
もっと訳のわからない概念的なモワッとした感じを予想していましたが、わりと分かりやすい話ではありました。
登場人物に関しては誰に共感できるという訳ではないのですが、業の深さを感じる暗めなストーリーと色鮮やかな花のコントラストがかなり雰囲気の良さを出しています。
アリスはジューンの信念を継いで強く生きるのでしょうが、この先も幸せになれるかどうかは微妙な感じがしてしまいます。
とにかくツイッグには穏やかな余生を過ごして欲しいし、キャンディ・ブルーには誰よりも幸せになってもらいたい。モーガン夫妻はとことん良い人で、この夫婦にもらわれて育ったチャーリーの屈託の無さも素晴らしい。モーガン家は黙っていても幸せな家族で居てくれそうです。
不完全燃焼な部分がある割に蛇足な部分も少なからずあり、伏せられてきた真実の部分についても早々に先が読める展開ではあったものの、なかなか面白かったです。
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