エピソード9 “The Grim Reaper”
あらすじ
農家の息子アルフレッドが作業用の機械に挟まれ、死亡する事件が起きる。彼は医師クロウフォードの年若い妻、ウーナに言い寄っていた。さらに父親との間に軋轢があったことから、殺人の可能性が浮上し、ブラウン神父は捜査に乗り出す。
ネタバレ感想
村の医師〈アダム・クロウフォード〉の若妻〈ウーナ〉は妊娠が発覚したものの、去年流産した際に産科医からはもう二度と妊娠が望めないと言われていたり、高齢の夫からは年だから子育てはムリだと話していたことが引っかかっているせいで打ち明けられずにいるようです。
たまたま怪我をして病院に来ていたマッカーシー夫人が、上の空で情緒不安定なウーナの異変に気が付きこの秘密を聞き出したのですが、「ハッキリするまで内緒にして」という願いはしっかり聞き入れられるのか不安しかありません。
それにしてもマッカーシー夫人、眼帯が似合いすぎております。女海賊の船長にしか見えません。
道端で立ち往生した車を、シドとブラウン神父の2人が押しているすぐ真横を、バイクに乗ったタットン農場の〈アルフレッド〉が無茶な運転をしながら通り過ぎていきました。
アルフレッドが向かったのはクロウフォード医師のところで、頭痛を訴えて痛み止めを貰いに来た彼に対し、過剰摂取は危険だしまず酒を止めろと真っ当なアドバイスを貰うばかり。
苛立つアルフレッドは、若妻の浮気を仄めかし、出て行く間際にも堂々とウーナに迫っております。
目薬を貰い忘れてきたマッカーシー夫人に代わって病院へ出向いたブラウン神父。入れ違うようにクロウフォードが車で出かけて行ったばかりで、夫がマッカーシー夫人の目薬も後で届けに行くつもりで、その前にタットン農場までアルフレッドの処方箋を渡しに行ったとウーナから聞かされます。
マッカーシー夫人からアルフレッドの横柄な態度について聞いていた神父は、ちょうど良いとばかりにアルフレッドにも話をしようとそのまま自転車で追いかける事に。
ブラウン神父が農場に着くと、無人の納屋で不自然に動き続ける機械が。
嫌な予感がして慌てて中を覗き確認すると、血飛沫のついた農作業用の脱穀機と、こちらも血のついたアルフレッドの靴だけが残されていたのです。
作業中は前を向くはずなのに、アルフレッドは後ろ向きに機械に落ちていたらしく、警察は不審死を疑っているようで、自転車のブラウン神父より何故か先に出ていた車のクロウフォード医師が遅く納屋に着いている事も怪しいと睨むサリバン警部補。たまにはまともな着眼点ですが、多分犯人は別の人物。
アルフレッドとはギクシャクしていたはすが、報せを聞いて「親に優しい天使のような子だった」と過剰に美化してみせた父親の〈ジョン・タットン〉は、近所でも残酷な人間だったと噂があるような存在だというのが気になるブラウン神父。
ブラウン神父とマッカーシー夫人は、郵便時間外に直接差し込まれたと見られる手紙を発見し、開いてみると『アルフレッドはクロウフォードに殺された』と書かれておりました。
これと同じ物が村中にまかれたらしく、警察も送り主と内容の真偽を突き止めるため動いているそうです。
ブラウン神父は、村中のタイプライターを試してこの手紙を書いたものと同じ機械を探し出してくれとなかなか面倒な作業をシドに託しました。
クロウフォード医師はあろうことか、アルフレッドの葬儀に泥酔状態で現れ、自ら怪文書の内容を裏付けるかのような行動をとっています。何やってんだ、おっさん!!
とんだ自滅行為が災いして、参列者の彼を見る目は冷たく、ジョンには息子を殺した犯人だと食ってかかられるわ、たとえ犯人じゃなくともこれは悪手でした。
ジョンには妻の〈アイリーン〉も亡くしているという過去があり、泥酔状態でクロウフォードの診察を受けに行ったところ頭痛薬を出されて追い返され、そのままトラックに轢かれたのだそう。
今回の流れとあまりに酷似し過ぎていて、ジョンが公衆の面前でクロウフォード医師を犯人だと決めつけ罵ったのも仕方ないことだったのかもしれません。
殺人が証明できなくとも、ウーナとアルフレッドはデキていたからクロウフォードに動機ならある、とジョンがブラウン神父に話していたのを盗み聞きするサリバン警部補の姿。
20分を少し過ぎたあたりで、病院に戻ってきてウーナが泥酔した夫を叱責する場面の右後ろにTITANICと書かれたポスター?が飾られているのが気になり過ぎます。拡大してみたい……。なんだあれは。タイタニック号沈没事故に関する追悼のようなものでしょうか?ダウントン・アビーの1話でもそうでしたが、イギリスの少し古めな時代設定のドラマを見ていると、タイタニックの話題や文字を目にする事があって、ファンとしてはそれだけで嬉しくなります。
ちなみに、ブラウン神父と言えば、タイタニックを急遽下船して難を逃れたアマチュアカメラマンの神父と同名で、彼が遺した1000枚以上の写真が映画『タイタニック』の基となったそう。G.K.チェスタトンの原作小説の方が先なので名前に関しては偶然でしょうが、ドラマ『ブラウン神父』の中にTITANICの文字が見られるのは何かの繋がりがあるような気がしておぉ〜と一人ほくそ笑んでしまいました。
飲んだくれて葬儀にやって来たクロウフォードの様子を見に行ったブラウン神父は、病院のタイプライターで打たれた書類をこっそり持ち出してきて手持ちの怪文書と睨めっこ。
シドに頼んでいたにも関わらず、一発でそれが同じ機械で書かれた物だと判明してしまいました。
再び病院を訪ねて誰も居ない事が分かると、サリバン警部補に連行された直前に、クロウフォード医師が慌てて引き出しにしまった手書きの天文図を、ピッキングでこじ開けて見つけ出したブラウン神父。
盗みの現場をバッチリ見られてウーナに咎められますが、逆にウーナもアルフレッドとの関係について嘘をついた事を追及されます。
事故のあった日、アルフレッドに付きまとうなと忠告するため納屋へ行った事を白状するウーナ。
しかしウーナのタイプライターが使われていた事を指摘しても、自分が書いたとは認めず、ついにゲール語で教育を受けたから英語での読み書きは出来ないと告白します。
先ほどまで脱線してタイタニックについて語っていましたが、あの小道具、ちゃんと意味がありました!逮捕されたクロウフォードに面会しようとしたブラウン神父に対し、いつものように捜査はプロに任せろと口出しさせないよう警告したサリバン警部補。そこでブラウン神父は『タイタニック号はプロが造ったが、箱舟は素人の作だ』と一言返すんですね。
プロが造ったタイタニック号が沈んだ事を指して、本職以外の人間が大きな功績を残せることもあるというような返しです。
このセリフに合わせてのあの小道具は粋ですなぁ。
このやり取りを終えてクロウフォードと面会したブラウン神父は、彼から元から殺す気で農場へ行き突き落としたという自白を聞きますが、既に答えが分かっていたため、三文小説の物語扱いで取り合わない神父。
引き出しから持ち出したのは天文図ではなく、人体図で、自身の体にあるほくろの位置を記したものでした。
これは肌の腫瘍で、皮膚ガンの典型的な症状だそう。しかも余命は残り数ヶ月。
自分でこの見立てに至ったクロウフォード医師は自殺も考えましたが、宗教上大罪にあたる自殺を選ぶことはできず。
そんなある日、処方箋を渡しにアルフレッドのところへいったところ、彼は納屋の機械で作業をしており、泥酔状態のまま自分に気がついて振り返ったアルフレッドはその拍子に後ろへ体勢を崩してそのまま機械の中へ吸い込まれていったのです。つまりはただの事故です。
床にはウィスキーの瓶が落ちていて、ジョンが見たら度重なる不幸をどれほど悲しむかと案じた医師は瓶を車に隠しに行って、戻ってきたらブラウン神父が事故を発見していた、と。
自分自身に疑いが向くよう怪文書を自作したことについては、どうせ余命は僅かなら絞首刑の方が痛みもないしウーナの看病の手間も省ける、そして、一人息子を奪ったのが神ではなく殺人犯だと思った方がジョンにとって少しはマシだという考えがあったそうです。
死の間際の人間だけに、考えが極論過ぎて……最期の時まで残された人々の役に立ちたいと考えるのは良心とエゴが紙一重といったところ。
ブラウン神父の言った通り、クロウフォードがしようとしたのは『形を変えた自殺』という表現が一番しっくりきます。真実を知れば誰も喜ばない話ですしね。
クロウフォードの意思は固く、告解として聞いた話なのでブラウン神父には守秘義務が発生してしまっております。
誰かを責めなければやってられないだけで、本心ではクロウフォード医師が殺したとは思っていないジョンを説得し、裁判へと連れ出す神父。
ウーナの事も誘いに行ったところで、確信犯なのか脱穀機に近づいた際に身体中に飛んでくるもみ殻のことに言及した神父に対し、夫の服を洗った時にはもみ殻なんて無かったと気がつくウーナ。
裁判所へ連行されるクロウフォードは、妻からの「あなたのウソのせいで私の浮気が原因だと噂されてるわ!針のむしろよ!」というやや予想の斜め上な訴えには耳を貸さなかったものの、「母子2人で行きて行けっていうの!?赤ちゃんが出来たの」という告白には少し気持ちが揺らいだようです。
裁判で、罪を認めるかという最終宣告に「私は無実です」と答えたクロウフォード医師。
これでよかったのは間違いないのですが、なんという人騒がせな(笑)
罪を被ろうと嘘の自白をするのはじゅうぶん捜査妨害の罪にあたると思うのですが、発端がただの事故なのでギリギリお咎めなしになるのでしょうか?どちらにせよ余命が僅かな現状でも、諦めずに治療法を探す希望まで持てたようです。
そのせいで説得が難航したとは言え、ウーナの妊娠を最後まで黙っていられたマッカーシー夫人の事は見直しました(笑)
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